IGLOO DIARY

源にふれろ#1

8/8/02....猫がぜんぶ人間になって我々の生活を仕切ろうとする。ハラに「"HORSES"っていうのは『無抵抗の人々』という意味もあるんだよ」と言われた。どういうことなのか。

8/9/02....富山の薬売りみたいな感じで、楽器屋が「置き楽器」を売り込みに来る。最初はマラカスとかボンゴとか、くだらないやつばかり出してくるが、だんだん「自動的に聴衆の視界がセピア調になるピアノ」とか、「弦の摩擦で特殊な音波が出て遠くから友がやって来るチェロ」などといった、霊力をもつ楽器を出してくるのだった。その説明を、僕と大月さんと山路さんと大野さんと稲毛さんと、あとなぜか村田さんで聞いている。村田さんは終始皮肉めいた笑みを浮かべていて、「俺はこんな奴に騙されませんよ」と僕に耳打ちした。

8/23/02....(1) 民家(自分の家らしいが実際の我が家とは全然違う)で、発狂した男が家の周りをうろついていて、いつ襲われるか分からない。(2) 全く同じ人間関係の設定で、舞台が高級ホテル、発狂した男がVシネマに出てくるようなヤクザになった。

8/24/02....犬に育てられた女と一緒に暮らす羽目になるが、その女がナツと仲良くなったために家の中に僕の居場所が無くなる。

8/25/02....長沼町。タマヨさんがアイヌということが分かり、それを祝う会が開かれる。タマヨさんは油で汚れた前掛けをして会に出ると言い張り、米びつに手を入れて動こうとしない。ナツのお父さんがその様子をメモしている。

8/29/02....製麺工場で演奏することになり、山路さんと集合場所へ行くが、集まっているのはなぜか阿部さんと福浦君だけである。おかしいなと思って建物の中を徘徊して探しているとナツが走ってきて、どうやら大津さんと稲毛さんは隣のテニスクラブに遊びに行ってしまったらしいことが分かる。テニスクラブに向かう途中、山路さんに「お願いですから二人を叱らないで下さいね。きっとストレスが溜まっているんです...」と言われる。教えられた場所に着くが、そこもやはり工場で、しかも危険な薬品を大量に使用している気配がする。受け付けに大野さんが居て、何やら忙し気にしているので「就職したんならそう教えてくれればいいのに...」と思う。

8/30/02....6畳ぐらいの部屋に大勢集まって車座になり談笑している。山路さん、伸夫、ハヤケン、高玉君、賀川さん、健一さんが居る(他にも居たが思い出せない)。僕の隣に金髪のカツラを被った女が居て、どうやらハヤケンが連れて来た女らしいということが分かるが、口からストローを突き出してニヤニヤ笑っていたりするので不愉快極まりない。伸夫に目配せすると「俺に任せろ」という表情で、僕と女の間に割り込んで来て、快活に女と会話し始める。女は喜び、自分がフィリピンで入れ墨を入れた時の話などをしている。

9/1/02....伸夫と、妖しげなバーへ出かける。看板が紫色。店の前で逡巡していると、アフロの中年女が出てきて外に置いてあるトースターでパンを焼いてくれて、エスプレッソまでいれてくれる。「こうやって客を品定めして、中に入れるかどうか見極めているんだな」と思う。女にギターを渡され「弾いてみろ」と怒鳴られる。「お前が本物かどうかこれではっきりする」と女は言う。仕方なくギターを受け取って、大津さんの真似をして速いアルペジオを弾いてみたら、うまく弾けた。自分でも感心するほど指が動く。伸夫も、「マカロニ」という映画でジャック・レモンがピアノをうまく弾いてみせる場面のマルチェロ・マストロヤンニのように、誇らしげに笑っている。ところが、女は僕を制して「私が聴きたいのはそんなしみったれたギターじゃないよ。本物の男のギターさ!」と詰め寄ってきて、僕から乱暴にギターを奪い取ってしまう。

9/8/02....大学の部室みたいなやくざなスペースで開かれているイベントに参加する。僕はなぜかサムピアノしか持ってなくて、それをチマチマ演奏して客に「あいつ凄いぜ」とか言われる。

9/14/02....礼子さんが作ってくれたトックを御馳走になる。そのトックは変わっていて、まず魚(キンキ?)があって、身を裂くとその下にトックが仕込んである。全体にだし汁がかけてあり、美味だった。

9/21/02....旅館の大広間でyumboのライブをやる。山路さんは平べったい、煎餅みたいなタムが2枚だけしか用意できず不満げ。大野さんは旅館の女将に怒られたと言って泣く。僕はピアノが無いので小学生の時に兄が買ったヤマハのアナログシンセを弾く。大津さんは居なかった。演奏10分前になって庄司君と稲毛さんがやってきて、僕のシンセのツマミをいじくり回してしまったので、音色が全く変わってしまい激怒して、文句を言おうとするが、遠くで阿部さんがジッと見ているので何も言えず。本番になると大野さんが異様に元気になりベースを弾く。「それどこから持ってきたの」と聞いたら「澁谷さんが嘘ばかりつくからですよ」と意味不明のことを言われる。稲毛さんが「これ買ったのー」と言って本番の演奏中にバスーンを吹くが、「バスーンってこんな音だっけ?」と思うぐらい細くてかん高い音なので驚く。「敵」を演奏しているつもりなのに、どうしてもマイナー調になってしまうのは大野さんのベースラインのせいだと思い、「それ間違ってるんじゃないの」と言おうとしたら、ベースを弾いていたのは大月さんで、大野さんは遠くでテレビを見ていた。「大月さんに頭から曲を教えなきゃならないのか。それも本番中に?」と思う。打ち上げには稲毛さんと庄司君とナツと森君と環ちゃんが参加していて、僕は2段ベッドの上の段に腰掛けてみんなを見下ろしていた。ナツは自分が考案した「漬け物時計」を披露していて、稲毛さんに「それ特許取れるよ!」と言われたりしている。

10/2/02....yumboの楽曲や歌詞が全て盗作という事が発覚したというしらせが入る。その瞬間に「家の裏に黄色い廃車がうち棄ててあったな。あれで逃げよう...」と考える。家の裏は竹やぶになっていて、入っていくが車は見当たらない。奇妙に思いながらどんどん歩いて行くと、竹やぶが開けた土地にギクシャクした設計の木造家屋が建っている。古びて傾いたわけではなく、最初からそういうデザインになっているらしい。家の正面に看板がついていて「水平線」と書いてある。「きっとホームレスの家だ」と思い、ここならかくまってくれるだろうし、何となれば生活していけるかも...などと考える。しかし、いつの間にかすぐ隣に大野さんが立っていて、「この家、でっかいトカゲしか住んでないと思われます」と真顔で言った。

10/8/02....札幌の地下街で何人かの人と徒党を組んで練り歩いていると、慌てて逆走してきた女に「あなたたち!ここから先はガスが充満していて行けないわよっ!」と言われた。どうやら、"ガス虫"というやつが大量発生して地下に潜伏していたのが一斉にガスを発生させているらしい。僕らは楽観的になっていたのでそのまま歩いて行く。「確かこの辺に、家電と中古レコードの店があった筈ですよ」と皆に説明するが、そこは今では銭湯になっていて、島崎和歌子が番台に座っているのが見える。仲間の一人がふざけて「島崎さーん、ガス虫ガス虫!」と叫ぶと、島崎和歌子は「あらやだ!」とか言いながら大慌てで逃げて行ってしまう。今では「ガス虫」は我々がでっちあげた架空の事件ということになっており、そうなると俄然気が大きくなって、すべての店から略奪しようという気持ちになり、僕は「さて、山路さんをどうやってまこうかな...」と考えている。

10/10/02....義手となり落ちぶれたミンガスが片手ピアニストとして再起を図り、日本に帰化する。大月さんの家にしばらく滞在するということを知り、工藤さんの運転する車で大月さんの家へ行く。工藤さんは榎木孝明のようなルックスで「いやあ、澁谷君のおかげで、憧れの人に会えるよ」と言う。しかし僕は、大月さんが僕らが訪ねて来るのを疎ましく思っていることを知っているので、心中おだやかでない。そこで「でもミンガスは不具になったんですよ」と水を差すつもりで言ったら、工藤さんは急に車を路肩にとめて僕の方を向き「本当かい?」と言った。そう言う工藤さんの胸元に"oh,really?"という文字。

10/12/02....四畳半の和室に楽器や機材を持ち込んでyumboの練習をすることになる。小野君、伊藤さん、阿部さん、フォトワークの名前知らない人、などが見に来ていて、部屋の隅に固まって座っている。山路さんが買った「電子ドラムパッド」というものを試すことになるが、「ピッ」とか「パッ」というような音しか出ない。「なぜいつものセットを持って来なかったんですか?」と訊いたが、山路さんは無言で機械の調整などをしている。その間、稲毛さんは帰ってしまい、大津さんは壁の本棚にびっしり並んだ漫画を端から読み始め、大野さんはなぜかトイレの掃除などしている。はるちゃんは最初から居なかった。僕はギターで「八王子」のBメロのリフを弾こうとしたが、なぜかどうしても矢野顕子の「ごはんができたよ」という歌のメロディーになってしまうのだった。

10/14/02....ナツが「宝くじ買って来たよ」と言って、ポンと床に放ると、それは全部7インチのシングル盤だった。一枚手に取って見ると、「kudo tori 1969 pre.clash」と書いてある。ジャケにnoiseの写真を使っているところを見ると、どうやらブートらしい。「他のも全部、こういうレコードか?!」とアニメ声で興奮。

10/15/02....どういう経緯からかは不明だが、落とし穴に落ちてしまう。土を深く(3mぐらい?)掘った穴の内部は炭坑のように木で補強してあり、黴の臭いがする。でも横穴を辿って行けば銀座区(かつて実家があった)へ出ると認識しているので、さほど不安は無い。

10/16/02....見知らぬ人の勧めにより、ひとりで筍狩りに行く。「あそこの小屋に筍のエキスパートが居るから」と教えられた小屋には河東田さんが住んでいた。確かにエキスパートらしく、庭先に生えている筍を無造作に引き抜いては背中の篭に放り入れている。その様子を遠巻きに眺めながら「この人は本当に元ちとせのアレンジの仕事をここでしているんだろうか?」と考えたりした。

10/17/02....正方形の木のブロックを当てはめていくパズルを、ナツ、工藤さん、関さん、僕というメンツで解いている。外は大雪なので、翌朝まではそうして遊んでいられるという心安さがある。木のブロックにはひとつひとつ名前があり、赤や青のペンキを塗った上から筆で「モロク」とか「アベリ」とか書いてある。これを木枠のなかにうまく当てはめていけば、1つの完成された文章になるらしい。関さんは「アベリ」のブロックを手に「これは『マキァベリ』の『アベリ』ですよ」と力説する。すると工藤さんが「マキァベリ、好きなの?!」と驚く。関さんは困惑して「好きとか嫌いとかの問題じゃないでしょ、すぐ怒るんだから、ねえ」と僕に笑いかける。僕は答えに窮してしまったが、横目で「ゴマキ」と書いてあるブロックを発見したところだった。

10/19/02....何らかの事情により、外国人の姉妹(7、8人居る)が住む家に泊めてもらうことになる。昼間、Judyという末の妹と廊下ですれ違った時に、文庫本を無言で差し出される。何の本だったかは不明。部屋で開いてみると「日本語すこしはなせます」と書いてある。夕食の時に何となくJudyに「何処で日本語の勉強したの?」と訊ねたら、Judyは俯いて質問に答えず、他の姉たちも無言で食べている。しかし姉たちからは、只事でないような殺気が漲っている。「今の日本語は通じなかったのかな」と思い、その場はやり過ごした。寝る時間になり、歯を磨こうと思って廊下をウロウロしていたら、寝巻きを着たJudyと出くわす。彼女は僕の腕をつかんで、真っ暗なリビングの隅へ僕を誘い込み、姉たちの部屋の方を窺ってから、はっきりした発音の日本語で「私は今夜殺されることになっていますが、あなたには危害は及びませんので、安心していて下さい」と話す。呆気にとられているうちに、Judyは自室へ戻って行く。僕が自分の部屋へ戻ると、Judyの部屋の方から、何やら聴いたこともないような奇妙な音楽が聴こえてくる(第三世界の音楽のようだった)。音楽は途切れ途切れに聴こえる。しかしどうもおかしいと思ってよく耳を澄ませてみると、音楽が鳴っている時だけ、音楽と同時にJudyの絶叫が聴こえる。「ああ、いま殺されているところなんだ」と絶望的な気分になる。

10/25/02....長沼町のスポーツセンターへ行こうと思い、見慣れた駐車場まで出ると、真っ白だった筈の建物が、全体に肌色に塗り替えられている。おかしいなと思い正面に回ると、看板は無かったが、巨大なショッピングモールになっていたらしい。1Fにソファや観葉植物のあるロビーがあり、柔らかいストリングスによるフォスター風の音楽が流れている。鼠色の大きなソファを占有して、さっちんが新聞を読んでいたのでとても驚き、声をかけようと思ったが、なぜか「さっちん」と言えず「さちこちゃん」と言ってしまう。さっちんは新聞から顔を上げて、普通に「あーしぶやさーん」と独特のイントネーションで言う。そして「もすこししたら、上でトルンカやるんだよ」と言うので喜び、二人でロビー脇の幅の広い石の階段を昇る。昇り切ると映画のポスターや立て看板があちこちにあって、館内に通じる布張りの扉の上に赤い電光掲示板の文字で「上映中」と光っていたりする。(さっちんはいつから長沼に住んでたのかな)と思いながらさっちんの後をついて行くと、さっちんはある看板の前で立ち止まり、悄然として振り返って「しぶやさ~ん、ごめ~ん。トルンカじゃなかった」と言う。「どれ」と僕も看板を見ると、「0:40- LIVE!! BIG ECHO」などと書いてある。看板を見ている間にさっちんの姿が見えなくなったので、廊下を進んで行くと、さらに上の階へ行くための石の階段があり、(上へ行った...?)と思い昇って行く。すると途中まで昇ったところで、階段の頂上から、ゲル状の、べとべとした水色の液体が、ドロドロドロドロと大量に流れてきた。魚が腐ったような、物凄い悪臭。慌てて階段を降りる。廊下には、階段を昇ろうとして躊躇している客が溜まり、皆、騒然として階段を見上げている。僕は、上で何が起こったのか想像もつかなかったが、さっちんがどうかしてしまったのではないかと気が気でならない。一人の婦人が意を決して、ベトベトの階段を駆け上がっていく。すると、それを見た他の客も安心したのか、次々に階段を駆け上がっていく。勢いよく駆けて行くので、彼等の靴がベトベトの液体の飛沫をそこらじゅうに飛ばし、逆に後ろの階段へ逃げ出したり、その場に崩れるようになって泣き出す女の子なども居る。「ああ、どうしよう。でも臭いし」と躊躇していたら、肩をポンと叩かれ、「さっちん?!」と思って振り向くと、ナツが恐慌状態の顔で立っていて、「あれ(ドロドロの液体)はさっちんだよ!みんな踏んじゃったから、もう元に戻れないよ!」と泣き叫んでいる。僕も思わず泣いてしまう。

10/26/02....ミナコさんとアパートで隣同士である。僕はナツとは知り合っていないことになっていて、小倉一郎の出てくる青春ドラマのような趣で生活している。ミナコさんは大掃除をしているらしく頭にハンカチのようなものを巻いて、ホウキとチリトリを手に忙しく働いているが、彼女が掃除しているのは僕の部屋である。僕は掃除を手伝いながら、何度も指摘しようとするのだが、「でもあんまり喋ったことないしなあ」と躊躇してしまう。段々いたたまれなくなってきて、トイレに逃げ込もうと思いトイレのドアを開けると大野さんが立っていて、「わっ!!」と驚いて叫んだ勢いで目が覚める。ナツが「やばいやばい」と僕を起こす声が聞こえる。しかし「大野はきっとドラッグをやっていたに違いない」などと思っている。

10/27/02....工藤さんが「電球だけで演奏できる」と言って実演しようとするが、うまくいかない。僕はそのやり方を知っている筈なのだが言葉が出ず、実験に没頭している工藤さんをただ見ている。音が出そうで出ない、その感じがえんえん続く。

10/28/02....長屋。母親に頼まれた用事のために町はずれまで自転車で行く。小学校時代の友人の大井学君の家があったので、懐かしくなり寄ってみる。呼び鈴を押しても誰も出ないので、納屋の方へ行ってみると、子供が20人ぐらい机を並べて座っていて、山口美江が黒板に図形のようなものを書いて何やら説明している。納屋の筈なのに、床はテラテラした緑色のリノリウムだ。「山口美江だ!」と思って見ていると、血相を変えた大井君が下半身裸にTシャツという格好で走ってきて、僕の右腕を包丁のようなもので切りつける。アッと声を上げて逃げると、大井君は必死の形相で追い掛けてくる。彼は走りながら「ごめん。悪いんだけど、やらなきゃならないんだよねー」などと叫んでいる。正気ではない。切られた腕を見ると、10cmぐらいの楕円形の傷になっていて、型でくり抜いたように凹んでいる。自転車に飛び乗って全速力で逃げる。長屋に帰ると、隣のレコード屋が閉店セールをやっていると知らされ、見に行く。店内では知らない歌手がギターの弾き語りをしていて、数人の客がそれを聴くともなしに遠くで腕組みをしている。退屈なので店の外に出ると、山路さんと大野さんが立ち話をしていたが、僕を見るなり「ああーっ!腕が腕が」と叫ぶ。僕は「こんなの大した怪我じゃないよ!」と言って腕を見たが、僕の右腕はいつの間にか肘から先が無くなっていた。いたたまれなくなり、その場からも逃げ出す。常に逃げている感じ。焦躁感と恐怖。

10/29/02....僕は床にあぐらをかいていて、部屋の隅の机の前に、僕に背を向けて青年が座っている。青年は頭を抱えていて、時々首をひねって僕の方を見遣る。僕は、コンピューターでプリントした彼の版画の図版を手にして、あれこれ批評している。B4ぐらいの大きさの紙の隅に、3cm×4cmほどの小さな絵が載っている。黄色いカーテンのようなものが縦に皺を作って寄り合っていて、陰の部分が茶色い、という版画。「図版が小さいので、これではよく分からないよ。でも君の作品は好きだな」と、僕は言うが、青年は髪を掻いたりして、きまり悪そうにしている。まるで「こんな奴に見せるんじゃなかった」とでも言うように。僕のすぐそばにCDラジカセが置いてあって、カチッという音がしたかと思うと、ゆったりしたカントリーミュージックが流れる。ギター、バンジョー、フィドルによる演奏。ふと、自分の上を誰かが大股で歩いて行く感覚(霊?)がある。

11/1/02....慣れない山登りをして極度に疲労している。目的は、山の中のある一角に「そこだけ絶えず雨が降っている地帯」があって、それを見に行くというものだった。高橋さんが詳しいらしく、皆を先導して登って行く。総勢2~30人の男女が居るが、僕の知り合いは高橋さんしか居ないので、高橋さんも気を使って話し掛けたりしてくれるのだが、高橋さんと話しながら彼のペースに合わせて登るのはきついため、徐々に脱落していく。僕を追い抜いて登って行く人々は皆、互いに無関心で、暗い表情をしている。振り返ると、芝居の書き割りのような壁紙のような森が広がっていて、よく見るとその一角に正方形の黒い地帯が見えたので、「ああ、もうとっくに雨の地帯は過ぎてしまったんだ!」と思う。が、誰もそれに気付いていない。ただ黙々と登っている。僕は、誰にも悟られないようにひとり下山しようと考える。この広大な森で、案内人なしで無事に下山できるだろうか。激しい不安と冒険への期待に駆られる。

11/2/02....取り壊し中の喫茶店で打ち合わせをすることになる。そこはヨーロッパのダンスホールのように広い。テーブルや椅子はあらかた撤去されてしまっているが、我々が座る分は残っている。久美子さんの友達が経営していたらしく、コネで使わせてもらうことになったのだ。山路さんがシンセサイザーを5、6台、扇状に並べて演奏する。「これだと澁谷さんの方がよく見えるんですよ」と意味不明のことを言う。僕は自分の弾くピアノを侮辱されたような気がして、次第に彼女に対して苛立ってくる。しかも、大津さんと大野さんと稲毛さんはその様子を遠巻きに眺めているだけで、何もフォローしようとしないので、余計に腹が立って、ピアノを力任せに弾いたら、適当に弾いているのに曲らしく聴こえる。得意になってどんどん弾く。

11/8/02....聴衆の満足度を計るメーターが発明され、その発表会で演奏することになる。公平を期するため(?)、見ず知らずの人達と4人チームになって演奏しなくてはならない。しかし、僕と一緒に演奏することになった人達の中に稲毛さんが居るので驚き、稲毛さんの方を見ていたら、とつぜん稲毛さんが振り向く。すると、顔の各パーツが福笑いのようにちぐはぐになっていて、しかもその紙に描いたような目や口がコマ撮りのアニメーションのようにサーッと動いている。激しく動揺し、泣き出す。

11/10/02....長屋。壁がブチ抜かれて宴会場のような広間になっている。外を戸田君と漂流の高橋君が行ったり来たりするのが窓から見えたので、招き入れる。高橋君が「想像以上に変な家に住んでますね...」と言うので、自分の陣地はごくわずかであることを説明する。

11/12/02....肌が石灰のように白くなる伝染病が流行し、長沼町が廃虚のようになってしまった。ある種の人にはうつらないらしく、僕と、僕をトラックに乗せて連れ回している見知らぬおじさんは何でもない。病気に罹るとたちどころに弱って死んでしまうので、まだ生きてピンピンしている人を探し出してトラックに乗せ、北海道から出ることになっている(風土病らしい)。廃品が山のように積み上げられている地帯へトラックで入って行くと、大勢の人が大鍋で何かを煮ているのを見つけた。車を降りて、その人達と過ごすことで安心感を得る。皆、病気にこそ罹っていないものの、家族や恋人を亡くしたりして意気消沈している。僕は何故か、母がその集団の中に居るのかどうかを確かめようとしない。そういう気も起きない。別にどうだっていい、という投げやりな感覚がある。とつぜん、集団が合唱しはじめる。大勢で歌っているのでタイミングがずれて節もバラバラだが、どうやら「美しき花は 話し合って 生きのびたとさ」と歌っている。トラックのおじさんが、酒の注がれたコップを手に近寄ってきて、「この歌、あんたのお母さんが死ぬ前に作った歌だべさ」と僕に言う。母が作曲などするわけがないと思い、その歌もひどく馬鹿らしく思える。

11/13/02....階段を限界に近い速度で駆け降りる競技にくり返し没頭し、最終的には芸術の域にまで達する。

11/15/02....自転車に乗ったら、ハンドルが車のように丸くなっているので戸惑ったが、運転してみると非常に具合が良かったので、「なぜ人類はこんな簡単な工夫を思いつかなかったんだろう?」と思う。

11/19/02....何年も前から、大津さんと生活している。ある時、大津さんの大事にしていた鳥が死に、大津さんはその鳥の思い出を一冊の本にまとめる。僕と大津さんは凄いテンションでその本の編集作業に勤しんでいて、バイトで来てもらった大野さんやはるちゃん、もちろん僕と大津さんも、「この本は絶対に当たる」という熱い確信を胸に抱いている。校正のためにゲラを読み返していた大野さんが、突然「なんていい話でしょうか」と言って泣き崩れる。それで大津さんが救急車を呼ぶ。

11/21/02....大津さんの車で海へ行くことになる。車を降りて歩いて行くが、プレハブで出来た魚市場の中を通り抜けて海岸へ出る筈だったのが、その魚市場は無限に続いているらしく、いくら歩いても出口が見えない。この市場の平台には、魚だけでなく雑誌やレコードまで並べられている。興味をそそられ大津さんとレコードや古本を漁るが、レコードは「森尾由美ベスト」とか「中井貴一『ぼっちゃん』を読む」とかだったので「出ませんねえ」と落胆する。

11/24/02....甲虫の外皮が最も頑丈な物質であることが科学的に立証され、甲虫戦車が次々に生産される世の中が到来した。僕はインターネットでこの情報を得て、山路さんにメールを送ると、パソコンの画面に山路さんが現れる。「ああ、ここまで進化したのか」と思う。山路さんはビニールのようなテカリのある素材でできた80年代っぽい服を着ていて、ヴォーグの表紙のような顔をしている。しかし画面の山路さんは静止画像のままだったので、「進化もこの程度か」とがっかりする。

11/25/02....父親が死にそうになっている。力なく横たわったまま、僕に長々と話す。遁走の日々、20年以上のストーリーである。「最後の数年間は埼玉に暮らした」と言うので「それは知ってる」と答えると、「そんな筈はない。俺は全ての痕跡を消したんだから」と言う。

11/27/02....鳥というのは、本当は藁と土で出来ている。生きているように見えるのは目の錯覚なのだ。と、誰もが信じ込んでいる。僕は大変な違和感をおぼえ、「さっちんならこのモヤモヤを分かってくれるにちがいない」と思い、東京まで無銭旅行をする覚悟で歩く。

12/2/02....豚のレース、というものに誘われる。不法占拠された鶏舎のような会場(閑散としていて、イベント会場とは思えない)には青い扉のバーがあり、その空間だけ別次元のように清潔で、賑わっている。皆、豚のレースの事は忘れて、なぜかバーのマスターに気に入られようとあからさまに媚びている。僕を会場に連れて来た者も、他の浅はかな者たち同様、マスターに気に入られたがっているようで、僕をマスターの居る部屋の前まで押しやって、よく分からない事を大声で訴える。僕は彼に両腕を掴まれてマスターの部屋の扉の前で動けないでいる。(このままだと扉越しに射殺される)と感じ、冷や汗が出る。スローモーションで、扉が部屋の中へ向かってはらりと倒れ、室内が丸見えになる。中にはマスターなど居なくて、見るからに頭の悪そうな女子大生っぽい女が二人、煙草を吸いながら談笑していた。二人は僕を一瞥しただけで、また何事も無かったように談笑に戻った。気が付くと、僕の腕を掴んでいた男は消えていて、自由の身になっていた。とにかく表へ出たい一心でバーの中を歩き回る。「出口→コッチ」と書かれた貼り紙を見て扉を開けると、高速のサービスエリアのトイレ。

12/9/02....外人の子供(男の子)が常に見張りとして付けられた状態で、学園祭のようなライブイベント会場をうろうろしている。自分の出番がもうすぐらしいのだが、正確な時間や場所が分からず往生している。「ここっぽいな」と思って入った部屋はただの教室で、生徒たちが机を繋ぎ合わせて卓球台を準備していた。ずいぶん安っぽいことをするものだなあ、と思い、こんなイベントなら演奏をすっぽかしてもいいか。という気にさえなる。ふと教室の壁に張られたポスターを見ると、習字の添削用の赤いスミで「ガセネタ」とか「リザード」とか「JON」とか書いてあり、驚いてよく見ようと歩き出す直前に、お目付役の男の子に「NO!」と言われる。卓球の準備をしていた生徒たちから笑いが起き、顔面が紅潮する。

12/11/02....雑居ビルの一室で工藤さんが始めたワークショップに参加する。20畳ほどの広さのスペースには会議テーブルが並べられており、その上にびっしりと瓢箪が並べられている。よく見ると、瓢箪は何かに支えられているわけではなく、互いに寄り添うことによる微妙なバランスで立っている。ちょっと揺らしたりすれば、一気に崩れてしまうだろう。僕らが到着した時も工藤さんは作業をしていて、慎重に瓢箪を立てているところだった。工藤さんの方を見ていたら、ふと工藤さんと目が合って、「こっちこっち」というように手招きされる。瓢箪がびっしりと立っているテーブルとテーブルの間の狭い通路を慎重に歩いて工藤さんのそばへ行くと、いつの間にか工藤さんはベースを弾いていて、勢いよく鳴らしながら「関さん来れなくなったから僕が」と言う。しかしその音はベースというよりトロンボーンのように聴こえる。「全部これで間に合うんですよ、本当は」と工藤さんは言い、非常に挑発的な顔をして唇を舐める。あまりの兇悪なムードにたじろいでしまう。でもヘタに動くと瓢箪が...。

12/13/02....服を着たままで血のシャワーを浴びる儀式を受けるために列に加わる。

12/14/02....大江千里をカジヒデキだと言い続け、森君に「もういいかげんにして!」と言われる。

12/15/02....病床に伏している女性が、見舞いに来ていた家族親戚友人たちすべてを病室から締め出して僕だけに残るよう言ったので、「愛されていない」という疑念が消える。「もう死んでいるのにこうして触れることができる」と言って、抱き締められる。

12/16/02....木造の、古い体育館のようなスペースを使って、あつし君がレコードフェアを開いた。行ってみるとレコードはあまりなく、壁に設置した棚に、工藤さんの焼き物がズラリと並べられている。いつの間にこんなに作ったのか、巨大な壷のようなものまである。肝心のあつし君が見当たらないので戸田君に訊くと、「澁谷さんちの猫を探すって言ってましたよ」と言う。「きっと僕などとは違うアプローチで探すだろうから、これは期待できるかもしれない」と思う。果たして、あつし君はハラを抱いて体育館に戻ってきた。僕とあつし君の間に立っている人々の手から手へ、それも頭上にかざすように、何か神聖なものを渡すようにして、ハラが僕の手へ渡される。とても元気そうだが、脇腹に穴があって、そこから糞が流れている。驚いてお尻を見ると、肛門が無くなっていたので「ああ、肛門が移動しただけだから、これは怪我ではないなあ」と安心する。ナツや山路さんも居て、皆で喜ぶ。あつし君はひとり冷静に金の計算をしたり、工藤さんの作品について何事か語ったりしている。

12/17/02....牛革で出来た大きな古いバッグから、子供が産まれるのを見る。腕組みをした何人かの人々に混ざって観察している。子供は次々に産まれる。時々、洋服を着た子供も産まれるのを見て、一緒に見ていた誰かが「あれはちゃんと決めてあるから」と呟く。最後にバッグから血が流れて、「これは生き物であることを示すためなんだ」と思いゾッとする。

12/18/02....誰かをひたすら殴る。その人をいくらでも殴っていいと言われたから。

12/22/02....ボーリングの球に刺が生えていて、女の子が大怪我を負う。見ると、血は出ていないが手のひらが汚物にまみれていて悲惨な感じを受ける。僕が車でその子を送っていくことになり、なにか一人前の男として認められたような、変な誇らしさを感じる。でもそれは本当は映画で、僕はそれを観ているに過ぎなかった。

12/23/02....新譜に収録される曲名が書いてあるカードがバラバラになったから拾って整理して、と工藤さんに頼まれる。座敷へ行くと、毛布にくるまった見知らぬ女性と、作業着のような紺色の服を着た武田さんと、すっかり老け込んで70才ぐらいに見える工藤さんが座っていた。僕が工藤さんに「あの、カードっていうのは」と訊ねると、工藤さんは小声で「やっぱり発売前のやつの曲名は見せたくないから...」と言った。僕は内心「新曲の曲名が知りたかったのに...」と不満を感じる。毛布にくるまった女性が、自分の身の上話を始める。その人は以前やくざに借りた金を返せなくなり韓国に売り飛ばされ、命からがら自力で逃げ出してきた。今はこの家の主人(?)の世話になっているが、その主人はどうやら、彼女が借金をしていたやくざと付き合いがあるらしく、家の主人もやくざも、彼女がこの家に潜伏していることを知っているくせに、わざと向こうの階段を凄い勢いで上がってきてこの座敷には入らずに向こうの部屋へ駆け込むという事をくり返す、という陰湿な方法で彼女を精神的に追い込んでいるのだという。工藤さんは突然彼女の話を遮って「あ、静かに」と呟いた。女性は何かを察知して毛布にくるまったままで部屋の隅に引っ込み、壁と同化しようとするかのように身を小さくした。気が付くと、僕は武田さんの背後に隠れるように座っていた。その位置からだと、座敷の出入り口と、その向こうの部屋がよく見える。ドタバタと階段を駆け上がる音が聴こえて、温泉旅館の番頭みたいな格好をした初老の男の姿が向こうに見えたかと思うと、そのままドタバタと向こうの部屋へ入って行ってしまった。彼女の話は本当だったのだ。男が行ってしまうと、女性は緊張がほぐれたのか毛布を取って、また部屋の中央に座り直した。

12/26/02....大内さんとセッションすることになり、二人でライブの出番を待っている。さっきまで楽屋に居たのに、床が勝手に動くからいつの間にか冷たい感じの駐車場みたいな空間に居る。僕はそこからどうやってステージへ出るのか分からず不安を感じているが、大内さんはしきりに「分かってるから。僕、知ってるから」と言うので信頼することにする。大内さんは真っ白いTシャツを着ているが、胸のところに映画が映写されたような画像でテレビ画面が浮き出て、それでテレビを観ることができる。「このまえテレビに出たから、もうすぐ映るよ」と言うので待っていたが、いっこうにTシャツ画面には大内さんは出てこない。むかしのCMみたいなものが放映されているが、どれもただの絵をいろいろ組み合わせてそれらしく作っているに過ぎない。

12/28/02....ラブホテルで陰惨な殺人事件が起こったとの知らせを受け、現場に急行する。現場にはパイプ椅子が並べられていて、僕を含む刑事20名ほどがドヤドヤと室内で着席する。あまりにも遺体が悲惨な状態なので、刑事といえども精神的にダメージを受ける危険性があるので、まずレクチャーを受けてから現場検証に入るのだという。僕の隣に座った年輩の刑事(『デラさん』と呼ばれていた。18才のガイシャと同じ年頃の娘あり)などは事前にワンカップ大関など用意してきている。着席した我々の前にはスクリーンがあり、まずロックバンドのライブ映像が映写される。コクシネルだ。’82年頃の映像だという話だが、全く聴いたことがない曲で、画面の左下に白抜きのテロップで「崖の断面」というタイトルが出ている。曲を聴いていると、次第に(隣の部屋にはまだ犯人が居て、こうしている間にも凶行を続行している)という感じがして、鳥肌が立つ。


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